エル・グレコ展に行ってきた

上野で友人とお茶をする約束があり、ついでにエル・グレコ展を見てきました。

  • 会期:2013年1月19日(土) 〜 2013年4月7日(日)
  • 場所:東京都美術館
  • 当日券(大人):1600円


エル・グレコは16〜17世紀に活躍した画家。当時はヴェネチア領だったクレス島(現ギリシャ領)で生まれ、イタリアのローマやヴェネチアでも仕事をした後、スペインに渡り、最終的にその地で没。
この経歴を見てると、ヨーロッパの人って数百年も前から国境をまたいで仕事してたんだなと驚く。



正直なところエル・グレコって名前を聞いたことがある程度で、どんな画家なのかよくわかっていなかったんですが、久々に会った友人にリクエストされて行くことに。この友人は大学時代に美術史を専攻していたのですが、授業でエル・グレコを取り扱ったことがあるんだそうな。「人物画が個性的なんだよね。蛇みたいな体なんだ。ちょっとグロテスクで毒っ気があるから、好みに合わない人もいるかもしれないけど」と言っていました。


蛇みたいな体ってどういうこと??
ちょっとグロテスクな西洋画??

と疑問に思いつつ会場へ。週末の午後でしたが、わりと空いていたような気がします。


絵を見て、友人が「蛇みたい」と評した意味がわかりました。絵に描かれた人物たち、そのほとんどが何頭身か、と数えたくなるほど妙に細長い身体を持っているのです。確かに、細長くてニョロニョロしているといえばしている……。顔立ちというか表情も、何だか不思議な感じがしました。優美とか端正とか調和、そういうのではなく、妙にオーバーで動きがあるのです。なんとなく90年代くらいの日本の漫画やイラストと通じるようなものがあるように感じました。
暗い色調の絵画が多い中で時折イエローやブルーの鮮やかな衣装を身にまとった人物が登場するのですが、その色彩の鮮烈さはとても印象的。

うん、確かにとても個性的な絵です。

そして絵柄だけではなく、実在の人物を配した地上とエルグレコの想像した天上世界、双方を一つのキャンバスの中に描くなど独特な構図の作品もあり、面白かったです。


以下、特別印象に残った作品について個別に感想を書いてみました。






印象的だった作品

悔悛するマグダラのマリア

マグダラのマリアと言えば復活したキリストを最初に目撃した女性ですが、一方で娼婦だったととか性的に放埓な振る舞いを行っていたという説もあり、「悔悛するマグダラのマリア」というテーマは当然そういった説を下敷きにしています。このテーマを好んで描いた西洋の画家の例にもれず、エル・グレコマグダラのマリアを描いた作品を多数残しています。
その中で、私が一番いいなぁと思ったのは、1576年頃に描かれたもの。青い衣装を身にまとい、ほっそりとした右手を白い胸に当て、右上方に顔を向けているマグダラのマリアの姿が描かれた作品です。膝の上に大きな本と骸骨を乗せています。その顔が大変愛くるしい。お人形さんみたいな可憐な美少女です。美女というには顔立ちがあどけなくて美少女といいたくなります。純真そうで清廉な美貌、そして背景の空や彼女の纏う衣装の落ち着いたブルーともあいまって、いつまでも見ていたくなる素敵な作品でした。



巡礼者としての聖ヤコブ

1585年〜1602年頃の作品で、右手に身の丈ほどに長い杖を持ち、簡素な赤い布を肩から纏った立ち姿のヤコブ像を描いています。
力強い。美しい。抜群の安定感。赤を除けば茶色がベースの落ち着いた色調の絵ですが、会場で正面から見たときのインパクトはとても強かったです。私がちょうどこの絵を見ていた時、近くにいた40代半ばくらいの男性が絵の前で長い間じっと見入ってました。その気持ちわかるなぁ。本当に、惹きつけられる絵でしたもん。
エル・グレコの絵というと、『フェリペ2世の栄光』や『聖衣剥奪』『無原罪のお宿り』のようなたくさんの人物がぎっしりと描かれる華々しい大作が有名なようですが、上記の『悔悛するマグダラのマリア』やこの『巡礼者としての聖ヤコブ』みたいに一人の人物を丹念に描いた落ち着いた絵の方が私は好みかもと思いました。