『シンドバッド七回目の航海』

 砂漠だとか、魔法の絨毯だとか、魔法のランプだとか、そういうアラビアン・ナイト的なものへの漠然とした憧れって結構自分の中にある気がします。


 というわけで何か『千夜一夜物語』に関係のある映画は無いかなと探したところ、『シンドバッド七回目の航海(原題はThe Seventh Voyage of Sinbad)』という特撮映画を見つけたので、観てみました。
千夜一夜物語』に登場するシンドバッドを題材に作られた映画です。

 
 監督はネーザン・ジュラン(Nathan H. Juran)、特撮はレイ・ハリーハウゼン(Ray Harryhausen)、主演はカーウィン・マシューズ(Kerwin Matthews)です。アメリカ映画なので役者達は皆英語を話しており(作中での設定はイスラム圏のお話のはずなんですが……)、私は日本語字幕で観ました。

 1958年公開とのことですから、なんと2009年現在、約五十年前の映画ということに!
1958年(昭和33年)といえば、私の祖父母世代の若い頃じゃないですか!おお〜こんなに古い映画なんですね。古い映画に独特な音楽の音に、当時がしのばれます。ちなみにこの作品は、ハリーハウゼン監督の始めてのカラーフィルムになるそうです。


  この映画は、やはり特撮による怪物たちの登場や、それによって成り立つ世界観、人間と怪物及び怪物同士のアクション、冒険に富んだ英雄譚、衣装等が魅力の作品だと思います。


【あらすじ】

 主人公シンドバッドは、船長としてバグダッドへ帰る船を運航していた。チャンドラ国王の娘、パリサ姫とバグダッドで結婚するためである。


 ところがその船旅の途中、嵐に遭い、食糧調達のためにとある島に上陸することになった。シンドバッド一行はその島で、一つ目の巨人に襲われている黒衣の魔術師と出会う。魔術師は巨人から魔法のランプを盗み出しランプの精に命じて巨人を撃退するが、そのランプは巨人に奪い返されてしまうのだった。シンドバッドは魔術師を乗せてバグダッドへ帰還する。

 
 ところがランプを手に入れたい魔術師は、シンドバッドをその冒険に巻き込みたいがために暗躍する。なんと結婚式を前にした朝、姫は掌に乗るほど小さくなってしまったのだ!姫の呪いを解くアイテムを求めて、シンドバッドは、魔術師と多数の部下と25人の死刑囚とともに、再び島に赴かざるを得ない事態になるが…!?というようなお話。


 ところで冒頭の船内での会話で、シンドバッドはパリサ姫を連れて自分の故郷バグダッドへ帰る途中なのだとわかりますが、私はてっきり姫との馴れ初めを描いた前作が存在していて本作がその続編なのかと思っていました。
 でも、そうではなく、この『シンドバッド 七回目の航海』こそがハリーハウゼンによるシンドバッド三部作の最初の作品なんだとか。シンドバッドと姫の馴れ初めもこの監督の映画で観たかったなぁ。


 ところで、シンドバッドの故郷・バグダッドは現在イラクの首都となっている場所だとわかるんですが、姫の故郷・チャンドラというのは何処なのかな?実在の場所なのだろうか。


【特撮映画として】

 この映画には、一つ目の巨人、手が四本ある下半身が蛇の蛇女、双頭の鳥、緑色のドラゴン、骸骨などたくさんの怪物たちが登場しています。彼らは、たっぷりと動き回り、シンドバッドをはじめとする人間達と戦ったり、怪物同士で戦ったりしています。

 
 さすがに現代のCGに慣れた目から見ると、怪物たちの動きがなんだかカクカクとしていてスピード感や緊迫感の不足を感じたりしするのも事実です。けれどもCGの無かった50年前、現実には存在しない一つ目の巨人やドラゴンなどを自由に映画の世界の中で動かせることが出来るというのは、なんだか凄く素敵だと思います。特撮というアイデアは、撮影における表現の幅を広げるとても良い手法の開発だったんだなぁとしみじみ実感しました。

 
 特に、骸骨とシンドバッドが剣と盾で戦うシーンは素人目で見ても凄かったです。骸骨が素早く実によく動いているし、シンドバッドを演じる役者の体の動きと上手く対応しています。それも通りで、この骸骨とシンドバッドのシーンは、特撮ファンから高い評価を得ていることで有名なのだそうな。映画を見終わった後、wikipediaを見て知ったことでしたが、うん、これは確かにいいシーンでしたよ。


 この映画を観て、特撮映画の歴史を調べたり特撮の手法を研究したりするのって面白そうだなぁと思うようになりました。特撮ファンがいるのもわかるわー。


 それと、悪い魔術師ソクラに魔法をかけられたことによってヒロインの姫は掌に乗るほど小さくなってしまうのですが、小さくなった姫と通常の大きさの人間達が同じ画面に映っているシーンは、私はそれほど違和感を感じなかったので感心しました。よほど上手く画像処理を施しているのでしょう。


【魔法のランプ】

 この作品には魔法のランプが登場するのですが、なんとこのランプの精は子供なのです。

 ディズニーの『アラジンと魔法のランプ』に登場するジンニーのイメージが強いせいか、少年姿のランプの精というのは意外でした。

 いろいろと気の利く子で、映画のラストではシンドバッドと姫に粋な贈り物をしています。可愛いらしいし、子供のジンニーというのもいいですね。この少年とパリサ姫がランプの中で対話するシーンはなんだか微笑ましかった。


 この映画では、ランプの精をランプから解き放つエピソードが物語の中に組み込まれていましたが、こういう善き主人公がランプの精を解放し、真の友情を得る、というのは魔法のランプものでは必須の展開なのかな。デイズニー映画でもこういう場面がありましたが。


【お気に入りのキャラ】

 お気に入りのキャラクターは、シンドバッドの部下の一人でした。
 姫の呪いを解くために再び島に上陸する時は、緑のターバンと、赤い上着、緑のズボンを身に着けた姿で登場している男性です。脇役の一人で、けっしてストーリーの中枢に関わる重要なキャラクターではないんだけれど、なんだか妙に気になってしまいました。


 彼はね、いい人なんですよね。
 一行がこれから島の内部に出発するぞというとき、彼は浜辺で「私もお供します」と言うのですが、シンドバッドは「お前はここで待っていなさい」と言い残して行ってしまいます。結局彼は主人の言いつけを破ってその後を追って行くのですが、なぜ命令に背いてついて行ったのかといえば、やっぱり主人の身を案じたからなのでしょう。彼はその後もシンドバッドと冒険をともにします(シンドバッドに助けられることが多いですが)。


 この映画は結構バタバタ人が死んでいきますが、シンドバッドがその死に哀悼を表したのは、彼に対してだけだったし(優しく遺体の見開いた目を閉ざしてあげています)、彼はいい従者だったのではないかなぁと想像しています。


 あともう一人、ヒロインのパリサ姫も良かったです。姫の役を演じている女優さん、キャサリン・グラント(Kathryn Grant)という方らしいですが、女性の私の目から見ても彼女は美人でチャーミングだったな。小さな姿も可愛らしかった。姫のキャラクター自体も、意外と使えるお姫様として活躍していたのが好印象でした。


【まとめ】

 ストーリー自体は、勇者がお供を従えて冒険に旅立ち怪獣や悪者をやっつけて美姫を助け出す、という古典的な英雄譚です。王道の展開。

 この映画で一番の魅力といえば、やはり人外のキャラクター達の‘動き’なのでしょう。骸骨とシンドバッドの戦いは一見の価値ありです。50年前の作品だと思うとなおさらその凄さに驚きます。