名古屋市市政資料館の味わい深さ


前回の記事で少し触れましたが、2009年の冬、愛知県の名古屋駅周辺を少しぶらぶらする機会がありまして、名古屋市市政資料館に行ってきました。ちなみに滞在中ずっとお天気に恵まれたため、名古屋というとすっかり冬晴れのイメージが脳内で定着しました。



大正11年(1922年)に建てられたネオ・バロック様式のこの名古屋市市政資料館は、国の重要文化財に指定されています。
現在は公文書館として名古屋市の行政文書などを閲覧・保管していますが、建築当時は名古屋控訴院・地方裁判所・区裁判所として使用されていました。昭和54年(1979)に裁判所の機能がよそへ移転し、復元工事を経て、平成元年(1989年)より名古屋市市政資料館として現在に至っています。



建物


さすが司法の場だったというべきでしょうか、国家の権威を示すかのように外観も内装も荘重な建築物です。
その雰囲気にのまれたのか、多数の観光客がいるにもかかわらず皆声をひそめて見学をしていて、ひんやりとした屋内は靴音が響くほどの静かでした。




豪華だなー。


この華やかで厳粛な雰囲気を気に入ってここで結婚式をあげるカップルもいるのだとか。元裁判所・現公文書館といえばれっきとしたお役所、そんなお役所でウエディング、という発想はなかったので知ったときはとてもびっくりしましたが、なるほど、こういうのもありなんですね。確かにステンドグラスや大理石のあしらわれた吹き抜けの中央階段室の様子は見栄えがするもんなぁ。教会や神社で挙げる式とは一味違った素敵な思い出になりそうです。


“ザ・豪邸”のイメージにぴったりなことから、結婚式だけでなく『花より団子2』や『華麗なる一族』などのドラマのロケ地としても活用されているようです。





↑の二枚は復元された控訴院の会議室の写真。お上品です。内装が重要文化財に指定されているとのこと。



  


廊下から小さな中庭の方を撮った写真。余談になりますが、この風景を見ていてなぜか高校生の頃に読んだ『アンネの日記』を連想してしまいました。確かにこの洋風建築は異国情緒があるけれど、アンネ・フランクの隠れ家って赤いレンガの壁だったっけな?



展示

パネルや模型などを使って名古屋市の歴史を説明する市政の展示は充実しており興味深かったのですが、一番インパクトがあったのは3階の司法展示でした。被告人や裁判官などの衣装を着せた多数のマネキンを使って、この建物が法廷として機能していた頃の様子を再現しているのです。



こちらは明治憲法下の名古屋控訴院第2号法廷の復元。大正11年(1922年)、この建物が新築された際の様子だそうな。手前に立っているのは弁護人です。壇上にいる五人は写真左端から検事、判事が3人、右端が裁判所の書記。五人ずらっと並んで見下ろしているとやっぱり威圧感ありますね。証言席に立った人はさぞ緊張したことでしょう。
ちなみに書記の人形が下向いているのとか、マネキンのポーズはなかなか芸が細かくて面白い。



  


法服の緋い蔓草模様は検事の証だそうです。紫は判事、白は弁護人、襟が緑なのは書記と色で職務がわかるようになっていたとのこと。そうかー、昔は弁護人も法服を身に着けていたのですね。



↓は現行憲法下の法廷の再現。モデルは昭和23年(1948年)頃の名古屋地方裁判所の単独制の法廷です。弁護人や検察官が法服ではなくスーツを着用していたり、検察官や書記官が壇下に居たり、と明治憲法下の法廷との相違点が見て取れます。新旧の法廷の様子を比較できるようになっているのは面白いと思いました。


こういう空間を大きく使って等身大のマネキンを立てて視覚に訴える展示手法というのは本当に印象深いなぁ。妙に生々しくて、そしてテーマがテーマだけにちょっと不気味で、傍聴席に居るとまるで自分が裁判に参加しているかのような錯覚を覚えます。今にもマネキンが喋りだすんじゃないか、と。
夜中の名古屋市市政資料館って夜の病院や夜の学校なみに怖そうだー。



階段を下りると1階には復元された留置所がありました。



薄暗く独特の雰囲気があって、見るからに寒々しくて、おまけに私が見学しているときには無人で、さすがにこのあたりを見学するのは少し怖かったですよ……。それにしても雑居房や独房なんてものまで復元するとは、やるな名古屋市……!いや、裁判所として実際に使われていた建物であることを考えれば当然なのでしょうけれど。


それでも結婚式が行われるほど壮麗なあの中央階段を降りていくと、この不気味な留置場に出るというギャップには感慨を覚えずにはいられませんでした。富と権威に守られた美しい階上、影を落とす寒々しい階下の対照性。味わい深い建物だと思います。
















まとめ

重々しさとともに華やかさを持つ名古屋市市政資料館。
名古屋城徳川美術館ほどメジャーな観光地ではないでしょうし、市政資料館という性質からどうしても地味な印象はつきまといますが、ここは結構良スポットなのではないかと思います。無料でこれだけの展示物を公開しているというのはありがたいことです。


レトロな建物自体の見所はもちろん、展示内容も大変充実しているので、建築好きや歴史好き、法学を専攻していた方などにおススメです。